2016 年 56 巻 9 号 p. 617-621
症例は69歳,男性である.初診12日前より複視,7日前より左眼瞼下垂が出現し,4日前には完全閉眼状態となった.左動眼神経・外転神経麻痺を認めたが,圧迫病変や糖尿病などの原因疾患なく,炎症性疾患を想定しステロイドパルス療法を実施した.若干の麻痺改善を認めたが,まもなく左右顔面神経・右外転神経・右動眼神経の麻痺が相次いで出現した.PET/CTで胆囊癌が判明し,左動眼神経麻痺出現後3ヶ月の時点で癌に対する外科治療を行った.術後2ヶ月で多発性脳神経麻痺は軽快し,以後5年間胆囊癌・神経症状ともに再発無く経過している.本例は多発性脳神経麻痺のみを呈した胆囊癌に伴う傍腫瘍性神経症候群の可能性がある.